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血小板減少性紫斑病

その患者さんは26歳。

神奈川で働いていて血小板減少性紫斑病と診断され、ステロイドを大量に使うパルス療法を受けたが効果が芳しくなく、実家近くの病院である私のいた病院に転院してきた。

血小板がかなり低下しており、ちょっとした傷からも出血がなかなか止まらない。

非常に温厚で穏やかな青年ですべて告知されており、病気がかなり悪いことを知っているのにいつも笑顔で看護師に接する方だった。

不思議なことに、実家近くだというのに家族の姿を見かけたことはない。家庭事情が複雑だったのだろうか。後見人は彼の職場の社長だった。そして、婚約者が面会に来ていた。

「お願いです。先生。いくら金がかかってもいいですから彼を助けてください」

社長はいつもそう言って彼の見舞いに頻回に来ていた。本当に人柄のいい知的な青年で、社長が次期社長にと育てているのだと言っていた。「俺の跡を継ぐのは彼しかいない」のだと。社長も本当にいい方だった。

血小板を輸血しながらドクターはまず、パルス療法を行ってみたがやはり結果は芳しくない。そこで、アメリカから最新の治療薬を輸入し彼に用いることになった。もちろん、日本では認可されていない薬剤である。

当時、保険診療と自費診療を混在させてはいけないという規則があったため、その薬を使う場合、全額を自己負担とするか、病院が自腹を切るかどちらかしか選択肢がなかった。ドクターは研究費としてその治療薬の使用に踏み切った。

病院には研究目的で使用していい金額枠が設けられているので、それを使用したのである。研究費として計上されてる金額は一説によると売り上げの10%ほどあるらしい。

そして、薬の投与が始まったが結果は芳しくない。そのうちに患者さんは失明した。

「脳の血管がいっちゃったね…」とドクターが患者さんに静かに切り出す。

「そうみたいですね。これも運命かな…」と患者さんは穏やかな口調で答えた。

脳の視覚をつかさどる部分で脳内出血が起きていた。普通であれば出血は止まるが患者さんは血小板が低いので出血は止まらないで脳を圧迫していき死に至る。余命が短いと告知されたのも一緒だ。

それから、患者さんは頭痛にさいなまれるようになって、それでも終始穏やかな口調で看護師と接していた。社長は絶対によくなると付きっきりで彼のもとに来ていた。

やがて昏睡状態になり、穏やかな顔で患者さんは死を迎えたらしい。社長も男泣きに泣いたそうだが、普段、気丈な主任が泣いたと聞いた時にはおどろいた。本当に穏やかないい青年だった。

婚約者の女性は見ていられなくなったのか途中から来なくなっていた。それほど闘病は激しいものだった。家族は一度も顔を出さずじまいだったらしい。
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